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2016年8月 2日 (火)

映画 『ぼくたちの家族』

監督・脚本:石井裕也、原作:早見和真、撮影:藤澤順一、編集:普嶋信一、音楽:渡邊崇、主演:妻夫木聡、池松壮亮、原田美枝子、長塚京三、2014年、117

 

決して派手な映画ではないが、誠実なつくりに好感をもてる映画だ。

これもまた、邦画のよき歴史を現在につなぐたぐいの映画であると思う。

 

若菜玲子(原田美枝子)は、最近ときどき、もの忘れをするようになっていた。

長男・浩介(妻夫木聡)の妻・深雪(黒川芽以)の懐妊を祝おうと集まった両家の食事会でも、深雪の名前を間違えたり、ずれたことを言い放つため、夫・克明(長塚京三)は、別に住んでいる長男・浩介(妻夫木聡)を呼び、玲子を病院に連れて行く。

 

検査の結果、脳に腫瘍があることがわかり、余命についての医師の話に、克明、浩介ともに混乱してしまう。

都内に住む大学生の次男・俊平(池松壮亮)を呼び、三人が玲子のために何ができるか話し合うことになる。・・・・・・

 

監督はまだ33歳の石田裕也、撮影監督は、私は高評価の『カミュなんて知らない』を撮っている、66歳のベテラン、藤澤順一である。

見ていて、すぐにカメラがいいなと思ったのだが、さもありなん、という感じだ。

 

監督が脚本を兼ねると、削りたいセリフを詰め込みすぎて、往々にして失敗するのだが、この映画では、それをよく承知のうえか、抑制が効いており、文字通り映像でそのセリフの部分を補うことに成功している。

内容からしても静かなトーンの映画だが、カメラの経験と力量が発揮されている。

 

出来事の中心は、母・玲子であるが、次第にそれは他の三人に移っていく。

かつては一時ひきこもり気味であった長男・浩介は、会社勤めをしながら実家の出来事に翻弄される。

さらにまた、そこに不幸がのしかかる。

玲子の入院費はバカにならない。

 

父・克明は小さな会社の経営者であるが、経営はうまくいっておらず、母・玲子がサラ金を利用して生活費に当てていることも、実は承知している。

次男・俊平からも、もはや自己破産しかないと言われるが、家のローンの保証人を浩介にしているため、踏み切れない。

 

数々のプレッシャーに押しつぶされそうな浩介が、母の不治の病を契機に、妻の懐胎という事実を添えて、何とか逆境に立ち向かっていこう、というのが、本筋となっている。

 

どちらかというとダメ親父の克明、奔放に生きる俊平が、それに巻き込まれるかたちで、家族「四人」が、生きる方向を模索していく物語である。

 

投げられたテーマは悲劇であるが、それでもカメラは落ち着いて静かに進んでいく。効果音や音楽も流れるが、映像やキャラクターの心理の動きの邪魔はしない。

 

冒頭からすぐわかったのだが、やはりカメラがいい。

ベテランであればあるほど、奇異な撮り方をしなくても、充実したシークエンスを生むことができる。次はこういうアングルでくるかな、と思うと、果たしてそのとおりの撮り方をしている。

 

話が話なだけに、撮る場所は限られてくる。自宅、病院、病室が中心であるが、そこを飽きさせないよう、アングルを変え、アプローチを変えて撮っている。

自宅はセットではなく、本物の空き家を使ったという。窓から入る光がまぶしい、室内が暗い、といったところも、かえってこの家族の日常に触れる感じになっている。

 

静かな進行であるにもかかわらず、この映画にメリハリを生んでいるのは、室内以外では、かなり効果的に室外を収めているからだ。

病院への坂道、最寄の駅前、浩介と俊平が駆け上る急な階段など、いくつかの外での食事シーン、移動の電車内などとともに、うまくストーリーにはめこまれている。

 

といって、カメラの王道にのっとったやりかただけでもない。

冒頭は、玲子の画面いっぱいのクローズアップから始まる。これは衝撃的な「入り」である。

そして、終わり方もまたいい。

 

監督は、自ら、演技のしっかりした俳優を選んだという。

ベテラン、長塚京三、原田美枝子は、うまく役回りを演じている。

 

妻夫木聡も、最も難しい演技を必要とする役を、背伸びすることなく好演している。この家族の一員、長男の責任、夫としての立場と母の病気への対応など、シーンごとに見せる表情は、妻夫木の演技の幅を広げていくだろう。

 

池松壮亮はこの映画でも、いくつかの賞を得ている。

数々の作品で演技が光っているが、この映画でも、役柄をよく理解し、うまく演じている。やあhり、全身のすべてで演技できる俳優というのは伸びる。本人もそれを自覚して、日々精進しているはずだ。目がいい。いろいろに変化する。

 

カメラのよい映画というのは、それだけで好感をもてる。

いちいち書かないが、その実力はさまざまなシーンに現われている。カメラの動きに注目できる映画であって、映画を勉強している人間は、こういう映画を見たらいいだろう。

 

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