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2016年2月14日 (日)

映画 『鬼畜』

監督:野村芳太郎、原作:松本清張、脚本:井手雅人、撮影:川又昻、音楽:芥川也寸志、主演:緒形拳、岩下志麻、1978年、110分、カラー。

川越市にある小さな印刷屋に、菊代(小川真由美)が小さな子三人を連れてやってくる。菊代は印刷屋の主人竹下宗吉(緒形拳)の愛人であり、妻・梅(岩下志麻)にはすべて隠していたから、大騒ぎになる。

気の弱い宗吉はバツが悪く小さくなっているそばで、二人の女が丁々発止の押し問答を繰り返す。
深夜、菊代は、三人の子は宗吉の子だからここへ置いて、自分だけ出ていくと啖呵を切り、去っていってしまう。

翌日より、いきなり三人のおさな子と暮らすことになり、宗吉はてんてこまいになるが、梅は、あんな女の子供らの面倒など一切見ない、と宣言する。

梅は子供たちをひっぱたくなど辛くあたり、地獄のような日々が続くが、ある日二階の棚をいじっているうち、棚にあった大きなシートがヒラリと落ち、偶然下にいた末っ子・庄二の上ににかぶさった。
偶然それを見かけた宗吉と梅に、子供らへの殺意が芽生える。……

おなじみのベテラン俳優が散りばめられ、単純なストーリーに厚みが出ている。
ほとんど新人に近かかった大竹しのぶが婦警役で出ているほか、印刷屋の使用人に蟹江敬三、パトカーの警官に田中邦衛などが出演している。

庄二は、いい加減なものしか与えなかったことによる病死であったが、二番目の女の子・良子は、まだ父親の名前や自分の住所も言えないことを利用して、宗吉は都内見物に出るふりをして、東京タワーの上に置いてきてしまう。

長男・利一は6歳になっており、住所も言え、兄弟が順にいなくなったことや、それにつれて冷たく変化していく宗吉の自分に対する態度や折檻などもあり、梅に嫌われていることもよく悟っており、良子のように捨ててくるわけにはいかない。

宗吉は旅行と称し利一を連れだす。東尋坊から能登半島に周り、能登金剛の崖の上で、宗吉は寝ている利一を抱いたまま立ち上がり、関野鼻の崖から利一をわざと落としてしまう。下に投げるのではなく、抱いている手を離すように、そっと利一を落とした。
『ゼロの焦点』で有名になったヤセの断崖のシーンもある。

宗吉は女房の尻に敷かれ、その陰で愛人をつくり、女房との間にはできなかった子供を三人もつくっていた。このしがない小心者の宗吉が、終盤、利一と止まった旅館のへやで、ヤドカリと遊ぶ利一に、聞かせるでもなく、自分の辛い過去や生い立ちを、涙ながらに話す。このシーンは緒形ならではの圧巻だ。

利一を殺すつもりでここまで来たのにもかかわらず、自分も幼い頃、親類じゅうをたらいまわしにされたり、人に裏切られたりした話をする緒形の演技には圧倒される。だから、子供らを大事にしなければならなかったのに、一人を病死させ、一人を捨て子にし、いままた目の前の子を、あすにでも亡きものにしようとしている。

利一は松の枝に引っかかって一命を取り止めるのだが、警察の事情聴取にも、何も答えず、容疑者として連行されてきた宗吉と向き合っても、この人はおとうさんではない、と語る。

ちょうどこのころ、子供を捨てる親、子に対する親の虐待、またその延長で、親と子の関係について、いろいろ話題になっていた。野村芳太郎が手がけた松本清張作品は、『張込み』『砂の器』などいずれもヒット作となり、この後『わるいやつら』『疑惑』へと続く。
清張作品は、サスペンスとして、原作が丹念に仕上げられており、脚本化しやすく、大衆の関心を呼ぶような、人間の内面心理へ迫るものが多い。

この映画の音楽は芥川也寸志だが、出だしはどこかズッコケムードの音楽だ。シリアスな内容の映画であるのに、菊代が男衾(おぶすま)駅から印刷屋に押しかけるまでは、どこか拍子抜けした味わいがあり、緒形拳の気弱なすっとぼけぶりと一致している。

ほとんどのシーンに子供が出てくるからには、子役の演技も大事である。利一役の少年は、演技力があるとは言えないが、こうした状況にある子の役柄なので、あえて丁寧な役付けをしなかったのかもしれない。
やはり注目されるのは緒形拳と岩下志麻の演技であろう。どちらも本当にうまいと思う。

岩下は当時37歳。若いころは清楚なお嬢さん役が多かったが、30代以降、役柄を広げ、桃井かおりとの共演作『疑惑』では、子を夫のほうに残し離婚している弁護士、『鬼龍院花子の生涯』では鬼龍院政五郎(仲代達矢)の妻・歌、『魔の刻(とき)』では息子・深(坂上忍)を愛する母親を演じ、その後『極道の妻(おんな)たち』で圧倒的な存在感を見せつけることになる。

小川真由美は、冒頭に出てくるだけであるが、啖呵を切るところの形相はものすごい迫力で、物語最後まで、その影響力をもっている。
岩下志麻も、石川県の刑事が宗吉を連行しにきたあとは、出てこない。大竹しのぶは、利一が助かったあと、婦人の警官として、何とか利一の口を割らせようとするシーンで初めて出てくる。アップのシーンもあり、ラストで利一に声をかけるシーンもあり、演技派を買われての出演だろう。その後大きく育っていった女優だ。

その後増加の一途をたどり現在にも頻発する子捨て、子殺しを扱ったテーマであるが、社会批判、保護者批判の映画ではなく、人間の本性に眠る鬼畜の部分と罪悪感を、映像に描写した名作だ。

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