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2016年1月17日 (日)

映画 『望郷』

監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ、脚本:アンリ・ジャンソン、ロジェ・ダシェルベ、音楽:ヴィンセント・スコット、主演:ジャン・ギャバン、ミレーユ・バラン、1937年、94分、モノクロ、フランス映画、原題:Pepe Le Moko

宝石泥棒ぺぺ・ル・モコ(ジャン・ギャバン)は、パリから逃げてきて、今はアルジェの港近くの通称カスバと呼ばれる丘の上の街に住みついていた。
カスバは入りくんだ迷路のような街で、警察は逮捕できず手をこまねいていた。悪行にもかかわらず、ぺぺはカスバで人気者であった。

やがてぺぺは、カスバに旅行客として訪れたギャビー(ミレーユ・バラン)と出会い、恋に落ちる。
ぺぺと毎日のように会っている刑事スリマンは、ぺぺ逮捕に一計を案じる。…

街に降りれば警察に捕まる。だが、ギャビーを追ってついに街に出る。
正装をしてまっしぐらに街に降りるなか、ぺぺの背景が幻想的に変わる。

ストーリーは至ってシンプルで、捕まらないためにカスバに身を潜め、カスバの連中からは人気者を慕われているが、内心、パリに戻りたいと思っていた。そこに、パリからギャビーという女が現われ、全身宝石づくめであっても、ギャビーの前ではペペは一人の恋する男となってしまった。
だが、ギャビーを追って街に下りることはできない。捕まってしまうからだ。
この大枠のストーリーに、サブストーリーが挿入されている。

ギャビーは4人の旅行者のうちの一人であり、ペペたちからすれば異邦人である。ギャビーのキャラクター描写が弱いとする批判もあるのだが、ペペとカスバと望郷がテーマであり、ギャビーには、ペペの郷愁への火付け役としての役割があるので、あまりキャラは濃くしなくてよかったのだと思う。ギャビーを描きすぎると、このロマンチックな映画は、かえってロマンスを失ってしまうだろう。

有名なラストシーンは観てのお楽しみだが、こんな感じである。

ギャビーの乗る豪華客船に、ギリギリで乗り込んだペペは、情婦イネスの密告により、スリマンらに船上で逮捕される。
最後のお願いに船を見送らせてくれ、と手錠のままのペペはスリマンに頼む。
やがて甲板にギャビーが現われ、カスバの街を茫然と見つめる。ギャビーはスリマンの嘘によって、ペペは死んだものと思っているからだ。
ペペはそのギャビーの姿を見つめ、思い余ってギャビー!と叫ぶ。
と同時に、出航の汽笛が大きく鳴り、ギャビーは両耳を押さえてそこを去る。
ペペは、ギャビーの後姿を追う。

このシーンのためにこの映画はあったのではないかとも思えるような、心憎いラストである。

ギャビーとの会話で、パリの思い出がよみがえる。二人とも、これが最後の出会いになるとは知り得ぬ別れ際に、ぺぺはギャビーの耳元にキスをする。

  ペペ「いい香りだ…」
ギャビー「メトロの?…」
  ペペ「一等車だな…」

カスバでは目立つギャビーの美貌とスタイル、そのギャビーと香水の香りから、パリを思い出すぺぺ。 

仲間の妻タニアが、若いころの自分の歌声をレコードで聴く。憧れてアメリカに渡った女が、パリを思い出して歌う悲しい歌だ。カスバで辛いことがあると、壁に貼った歌手時代の若い自分の写真を見ながら、この歌を聴くのだ。
ここでこの映画のテーマは、「ペペ・ル・モコ」から「望郷」になる。

邦訳を『望郷』としたのはたいしたものだ。これに匹敵するのは、『遊星からの物体X』(The Thing)、シャロン・ストーンの『氷の微笑』(Basic Instinct(基礎的本能))くらいだ。
これは昭和12年の映画である。この年7月、盧溝橋事件が勃発している。この映画が後に日本で公開されてから、望郷という言葉がはやるようになったとも言われている。
1939(昭和14)年キネマ旬報ベストテン1位となっている。

『モロッコ』『望郷』『カサブランカ』…と、恋と別れが、みな北アフリカの乾いた土地を舞台とするのは不思議な共通点だ。

ミレーユ・バランは他にたいした出演作もなく、この映画がそのまま代表作だ。当時はやりの、ディートリッヒに似た、細く引いた眉、恍惚とした目の表情、傾けてかぶる帽子、…エレガントで魅力的な女優だ。

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