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2015年6月24日 (水)

映画 『紙の月』

監督:吉田大八、原作:角田光代、脚本:早船歌江子、撮影:シグママコト、音楽:little moa、小野雄紀、山口龍夫、主演:宮沢りえ、池松壮亮、小林聡美、2014年、126分、松竹。

よくできた映画だと思う。

子のない契約社員の銀行員が、顧客の孫である大学生と恋に陥り、これは偽物の愛の生活と気付きながらも、自分の思う自由を実現するべく、徐々に多額の横領に手を染めていく。

紙の月とはペーパームーンであり、映画終盤で、梅澤梨花(宮沢りえ)が、空に浮かぶ三日月を指でなぞると、三日月が消えてしまうというところからきている。
その明け方の駅のホームでのシーンは、梨花が初めて、大学生・平林光太(池松壮亮)と夜を共にした晩の明けであった。

監督は、『桐島、部活やめるってよ』で第36回日本アカデミー賞最優秀監督賞、最優秀作品賞を受賞した吉田大八。
原作にはない銀行員として、先輩格でお局的存在の隅より子(小林聡美)、梨花の同僚で、小悪魔的なセリフをささやく相川恵子(大島優子)を、登場させている。
ベテラン石橋蓮司や中原ひとみも出ており、作品を引き締めている。

仕事熱心で顧客の評判もよい梨花は、パートから契約社員となる。
大口の顧客のひとりである平林孝三(石橋蓮司)の邸宅に行くと、たまたまそこに来ていた孫の光太と会う。

帰り道、光太は梨花を待ち伏せしていたば、梨花は無視して帰る。数日後また、駅で互いを見かけ、梨花は光太とラブホテルでひと夜を過ごす。
夫・梅澤正文(田辺誠一)とは円満であったが、夫あ仕事に夢中であり、梨花はどこか気持ちのすれ違いを覚えていた。

やがて、梨花は、光太が大学の授業料150万円余りをサラ金から借りていることを知り、それを立て替えると申し出る。
梨花が、顧客のカネをごまかして得た200万円の入った封筒を光太に渡そうとすると、光太は、「これを受け取ったら、関係が変わっちゃうよ」と言って拒むが、「何も変わらない」と梨花に言われ、受け取ることにする。

次第に二人の関係は親密となり、郊外に二人だけのきれいな賃貸マンションを借り、梨花のくすねるカネも大きくなっていった。・・・・・・

冒頭に1994年と出ており、バブルのはじけたころが背景となっている。
高度成長期にも、三和銀行や滋賀銀行で、女性行員の巨額横領事件が発生していたのを思い出させる。この二件は、結婚をエサに、30代半ばの独身OLが愛人へ貢いだ横領であったが、この映画では、梨花という、世間並みの家庭をもつ女性が、自らの意志で、横領に走ってしまう。

言ってみれば、「よくある話」であって、そこをどう映像化しエンタメ性を保たせるかが、監督の力量にかかってくる。この期待は裏切られなかった。『桐島、部活やめるってよ』を撮った監督だけのことはある。

宮沢りえも、役柄を心得、さまざまな表情を見せてくれる。池松壮亮は、ここのところ観てきた三作品のなかでも、いちばんよい。『愛の渦』『海を感じる時』『紙の月』三作品ともセックスシーンがあるのは偶然というしかない。
ただし、この作品では、セックスシーンは他の出来事と均等にしか描かれていない。これは、梨花の心情を軸として進められているからだ。

初め、化粧品を買うために、支払いに足りず、顧客から預かったままバッグにあった金から、一万円を取り出して使ってしまう。しかし、すぐ次の日には、自分の口座から降ろしてそろえ、業務には何の支障もない。

しかしやがて、光太の借金の話を聞いたところからは、加速度的に、横領していく。そのうち、プリンターを使って、偽の証書までつくるようになる。

隅より子が自身の異動にかかわる話を聞いたあたりから、梨花は怪しまれ、やがて悪事は露見する。光太との関係も終わってしまった。

ラスト近く、会議室で二人だけとなった隅と梨花の対峙するシーンがあり、そこで、「梨花のペーパームーン的ニセ恋物語」は、一応の結論を出す。この無機質な空間で、梨花の紙の月は総括される。この演出はよかった。

冒頭に、カソリック系の女学校で聖歌が歌われる。シスターの指示のもと、外国で災害に遭った子供たちに、わずかでいいので寄付をしよう、ということになり、梨花はその寄付を続けていた。
この回想シーンは、梨花の現在と対比されるが、説教がましいわけでもなく、流れるようなアクセントとして適宜挿入されており、効果的だ。

全体的に、ストーリーに一定のテンポが保たれており、これは、人のカネを横領してまで大学生との豪華な時間に耽る梨花の心情とシンクロしている。
二人の心境の変化は、徐々に二人の衣服がきれいになり、三泊もする豪華ホテルのスイートルームでのはしゃぎようにも現れている。

この監督は、人間の心情の変化を、時間の経過とともに、小道具や日常のひとコマなどを使って描写するのがうまい。

いつもお笑い系の多い小林聡美の芝居がうまい。

映画として、ふつうに楽しめる作品である。

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