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2014年10月14日 (火)

映画 『鑑定士と顔のない依頼人』

監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ、撮影:ファビオ・ザマリオン、編集:マッシモ・クアッリア、音楽:エンニオ・モリコーネ、主演:ジェフリー・ラッシュ、2013年、124分、イタリア映画(英語)、原題:The Best Offer(最高の申し出、付け値と掛けている)

『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』など秀作で知られるジュゼッペ・トルナトーレが監督し、この二作品でトルトナーレと組み、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『遊星からの物体X』などで知られる大御所、御年84歳のエンニオ・モリコーネがタッグを組んだとなれば、観ないわけにはいかない。

しかし、たったそれだけの情報で観たので、まさかこの作品が、ゆるやかなどんでん返しを招くミステリータッチの映画だとは思わなかった。

熟年の域にいるヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は、実力派の骨董品鑑定士であり、日々、オークション会場で、競売人として活躍していた。
高級レストランでも手袋をとらずにグラスを手にし、携帯電話もハンカチで覆って持つなど、潔癖な一面がある。
生涯独身であるが、暗証番号を押して入れる秘密の奥のへやには、四面の壁一面に、美しい女性の肖像画が掛けられており、毎晩そのなかに身を置くことで、くつろぎのひと時を送るのであった。

実はここにある肖像画は、友人ビリー・ホイッスラー(ドナルド・サザーランド)と結託して手に入れたものであった。すなわち、これはと思う作品がオークションに出されると、決まってビリーが競売に参加し、ビリーが最高額の値を言ったところで、競りは終わり、ビリーが競り落とすのである。
そのビリーには手数料ほどを払い、ヴァージルが高価な作品を、一個人のものとして自分のへやに持ち込み、飾るのである。

ある日、ヴァージルの元へ、骨董の鑑定を依頼する電話が入る。
用心深い彼は、初め秘書のふりをして応対しており、いきなりの依頼は断っていたが、しつこくかかってくるその女性クレアの依頼に心動かされ、ついにその屋敷に足を運ぶ。
しかし、約束の時間に行ってみると、門は閉ざされており、応答もなかった。巨大な屋敷を前に、彼は帰らざるをえなかった。

翌日同じ女性から電話があり、失礼を詫びると共に、再度鑑定を依頼したいと言う。骨董品そのものと、若い女性の声に半ば誘惑されたヴァージルは、再度その屋敷に向かう。

しかし、クレアとはその屋敷内にいても携帯電話でしか話せなかった。
屋敷の下僕によると、彼女は、十代半ばでのある事件をきっかけに外出ができなくなり、自分のへやからも出ないということだった。他人が誰もいなくなると、ようやくへやから出るというのだ。

いろいろな骨董品が転がっている古びた屋敷の床に、ヴァージルは錆びた歯車を見つける。彼は興味をもち、それをこっそり持ち帰り、友人である若い機械部品屋ロバート(ジム・スタージェス)に、何の部品かを尋ねる。
彼によると、おそらく由緒正しい何かの作品の一部であり、まだ屋敷のどこかに他の部分があるかもしれない、と暗示するようなことを言う。

鑑定士としての予感もあり、ロバートの言葉もあり、クレアの再度の来訪依頼を受けて、ヴァージルはまたも屋敷に足を運ぶ。……

こういうわけで、巨大な屋敷に住む若い女性クレア・イベットソン(シルヴィア・フークス)が姿を現すのは、ようやく中盤に入ってからである。タイトルの所以である。
その間にも、彼は日常の鑑定の仕事をこなしながら、少しずつクレアに関心をもっていく。

あるとき、屋敷から出るふりをして、大きな彫像の陰に隠れると、あたりを見回しながらクレアが現れ、遠目に初めてその顔と姿を見るのである。

この映画については、さすがに詳細を書かないほうがいいだろう。
クレアとひと晩を過ごすまでになった老齢のヴァージルは、最後、ゆるやかに裏切られてしまうのだ。
独身を貫き何点もの美しい女性の肖像画を愛の対象としていたヴァージルは、その多くの高級な肖像画に替えて、ようやく実在する若く魅力的なひとりの女といっしょに棲むようになったのも束の間、外国出張中にもののみごとに女は姿を消し、秘密のへやの肖像画はすべて持ち去られてしまうのだ。

ラスト近くは、すべてを失って、心虚ろになり半ば精神の崩壊したようなヴァージルが現れ、何ともミゼラブルな姿で、気の毒に思ってしまうくらいだ。

おじさんよ、いい気になるなよ、上ばかり見ていると足元の大きな穴にはまりまっせ、と言わんばかりの声が、スクリーンの奥から聞こえてきそうな結末だ。

似た傾向のミステリアスな作品は他にもあるに違いないが、この作品には、さすがに華麗なる作品を生み出してきたトルナトーレらしい個性がある。

骨董品、古美術品、絵画などを初め、それにふさわしい机、衣装、建物、レストランなどが、常に画面にあり、高級感を高めてくれる。
内容柄だろうが、曇った空や雨のシーンも適切に配分され、屋敷内なども全体に暗さを保っている。その屋敷も、巨大な牢獄のようであり、いくつもの窓があるほかは特徴もない。庭に草は生え放題で、むしろ巨大な廃墟のような様相を呈している。

そうして出来上がった舞台に登場するのは、一見何でもない登場人物たちであるが、終わり近くになると、それぞれが一挙に、真の姿を現す。ただスクリーンには現れない。ストーリー展開として、観る側が、そうだったか、と真の姿に気付くのである。

観ていくうちに、よくよく観ていれば、いや、ふつうに観ていても、あれ?と思うようなシーンが出てくる。
あの下僕は、あの屋敷で長い間働いているのに、それでもクレアの姿を見たことがないと言う。
屋敷の向かいにあるバーは、ヴァージルが雨宿りをきっかけによく寄るようになるのだが、入口にはいつも、手足の短い不具の女性がいて、意味不明の数字を呟いている。

女にもてるロバートは、仕事を依頼にくる若い女性客には、別れ間際にそのつどキスをするほどで、複数の女の子と付き合っているように見えるが、本当の恋人は最初に出てくる黒人の女性である。
こうしたロバートの存在は、単にヴァージルの仕事仲間を越え、ヴァージルに、若い女性との付き合いを勧めるような雰囲気を醸し出すよう作用している。

几帳面で潔癖な老紳士は、何とも大掛かりな罠にはまってしまった。
憐れむべきか、滑稽なことと笑い飛ばすか、…観た人によってさまざまだろう。

時計や歯車だらけの奇妙な喫茶店の奥に座り、おひとりですか、と聞かれると、もうひとり来る、と答える、給仕はテーブルに、もう一人分の食事の用意をして去る。

まだクレアの登場を夢見ているような、あるいは、それはありえないとわかっていながら、あたかも不在の恋人と食事をするかのようなヴァージルの姿から、徐々にカメラは引いて、ラストとなる。

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